北海道へ
昔からずっと行ってみたかった北海道に、行くことになった。
実は、学生時代、修学旅行で一度足を運んだことはあったのだが、とあるハプニングが起こって良い思い出にはならなかった。
行きたい気持ちがありながら、足が遠のいていたのだ。
気持ちの変化があったのは、大人になって酸いも甘いも経験したからだろうか。
優しい人たち
以前、どっかのテレビ番組だったか雑誌だったか忘れたが、北海道の人はあか抜けた考え方をする方が多く、付き合いやすいと聞いたことがある。
実際に、お店や宿では、スタッフだけでなく、いろんな人と楽しく会話ができた。
みんな、笑顔を向けて歓迎してくれた。
一人で来たのに、全くそれを感じさせることなく、日々がひたすらに楽しい。
なんだか俺のバイクも楽しそうだ。俺は、少々浮かれていたのかもしれない。
バイク好きな女性
その人とは、とある場所で合った。
聞くところによると、一人でツーリングをするのが好きなのだそうだ。
バイクの免許は、数年前にとったとのことだが、休みの日はいつもどこかに出かけていると聞き、気が合うなと思った。
お互いに、どこから来たのか、どんな仕事をしているのか、独身なのか既婚者なのか聞くこともせず、ただただ北海道のすばらしさを褒め合った。
いつもなら、自分からこんな風に積極的に話をすることなどない。
その日はテンションが上がっていたのか、俺はいろんなことを口にしていた。
「バイクは男性だけのものではないですよね?」
女性は、そう言って、俺が手渡した缶コーヒーを口にした。
「もちろんです。同じバイク好きな方に出会えてこちらも嬉しいですよ」
本音だった。
女性は、ニコッと微笑むと、すぐにバイクに乗った。
俺は、慌てて話を続けた。
「あの、せっかく北海道に来たんです。良かったら一緒に食事でもどうですか?」
清算
自分でも驚いた。
繰り返すようだが、自分は本来こんな積極的な人間ではない。
でも、もっとこの人のことを知りたい。
やましい気持ちがあるわけではなかったが、もっと深く知りたいと思ったのは事実だ。
女性は、顔の前で大きく手を左右させ言った。
「私、バイクが恋人なんです。迷惑です」
そういう意味で言ったんじゃないと伝えたかったが、言えぬまま、彼女はさっと走り抜けて行った。
思い出した。
なぜ俺が北海道に長く行くことができなかったのか。
高校生の修学旅行に、俺ははとある子から告白された。
しかし、他に好きな子がいたため、断ったのだ。
恋愛に興味はないから、そういうのは迷惑だと言って。
まあ、これくらいの話なら良くあることだろう。
俺は、自分で思うよりもクソだった。
俺は告白を受けて断ったその後すぐに、自分が好きな子に告白してしまったのだ。
それを、俺がふった子が悲しそうに聞いていた。
どうして、ちゃんとほかに好きな子がいるから付き合えないと言わなかったのだろう。
きっと、凄く勇気を出して俺に告白してくれたはずなのに。
思いがけず、ようやく過去の自分をちゃんと叱れたような気がした。
今晩のご飯は、奮発して贅沢することに決めた。
大人ゆえの苦々しい思い出を、バイクを通して書いてみました。