モノの命
今からちょっとおかしなことを書く。
俺は、モノには命が宿っていると思っている。
発言しない人間が、何も考えていないわけではないように、モノを言わない無機質な存在も、言葉を発しないだけで、見聞きしていると思っているのだ。
そして、犬猫が好きな人間が、愛犬と話してみたい、愛猫とおしゃべりしてみたいと願うように、俺も俺の一番の親友であるハーレーと、会話ができたらいいななんて考えている。
バカな考えだろう?
ハーレーと一緒にいるときは、まるで世界を独り占めしたような気持がする。
ハーレーをいろんなところに連れて行ってやりたい……なんて偉そうに思っているのだが、結局俺のほうがハーレーに連れて行ってもらっているのだ。
その日が来た
すばらしく良い天気だったあの日、いてもたってもいられず、俺はハーレーで遠出することにした。
こんな良い日を無駄になんかできるわけがない!
南に行こう!
その日は、なぜかそう思った。
ブンブン良い音を響かせながら風を切る。
俺のハーレーの音を聞いた何人かが振り向いたけれど、こういうことはよくあるから、それほど気にはならなかった。
しかし、その中に、なぜか気になる男がいた。
何がどうというわけではないのだが、直感的に何かをキャッチしたのだ。
すると、後ろのほうから大きな声で泥棒!という声が聞こえた。
気のせいだ。
そう思ったのだが、引き続き、どこからから追いかけろと声がした。
ん?何?
「あいつが犯人だ、追いかけろってば!!」
なんと、ハーレーからその声が聞こえていたのだ。
手厳しいハーレー
慌ててブレーキをかけた。
本当にハーレーから聞こえているのか確かめたかったのだ。
「何度も言わせるなって!お前しかアイツを捕まえられないってばよ」
やっぱりハーレーから聞こえている。
Uターンした俺は、ヤツを追いかけた。
ブンブーン。
ヤツは慌てた様子で引き返していく。
でも、ここはハーレーの勝ちだ。
スピードでバイクに勝てるわけなどない。
ところがだ。
アイツがいない。
「チクショウ、見失ったか」
「左に曲がれ、黄色いのれんのラーメン店のとなりの細い通りにいるから」
ハーレーがまたしゃべった。
「お前、話ができるのか?」
俺は、声に出してハーレーに聞いた。
「そんなことはどうでもいいから、早く追いかけろって!」
ハーレーに叱られた。
夢
結局、泥棒は御用になった。
俺を含め、数人が駆け付け、捕まえることができた。
それは良かったことなのだが、それよりも俺にとってはハーレーがしゃべったことの方が気になる。
俺は、そのまま予定していた通り、ハーレーを走らせ、目的地まで行った。
「なあ、俺夢を見ていたのか?」
恐るおそる聞いてみた。
もちろん、近くに誰のいない場所で話しかけた。
……
何の返答もない。
「だよな……」
我に返った俺は、熱い缶コーヒーを飲んで、帰ることにした。
ブンブンブーン。
いつものようにエンジンをかけると、静かにアクセルを踏んだ。
「じゃあ、安全運転でヨロシク!」
は?
どうやら、このハーレーとの時間はますます楽しくなりそうだ。
*ハーレーと話せたらいいなと思って書きました。