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バイクにとり憑いた幽霊

幽霊の真実

よく、幽霊には足がないと言うけれど、あれはウソだ。
どうしてこんなにも確信を持って言えるのかというと、足がある幽霊を見たことがあるからだ。

何年前になるだろうか。
俺が就職試験にさんざん落ちて、少々自暴自棄になっていた時のことだ。
一人暮らしをしていたアパートを後にして、一度実家に帰ってきたことがあった。
大学進学で都会に出てきてから、ずっと放置していたバイクが恋しくなり、また乗りたくなって帰省した日のこと、あれは起きた。

エンジンをかけてみると、ちゃんといい音がする。
よしよし、これなら大丈夫だ。
ちょっと走ってみるか。
そんなことを思いながら、俺は昼食をとっていたんだ。

ブンブーン。
ん?切ったはずのエンジンの音がする。
この家でバイクに乗るのは俺だけのはず。
もしや、よからぬヤツが俺のバイクをかっさらっていこうとしているのか?

慌てた俺に、衝撃が走った。
食っていたカレーライスの皿に向こうに、バイクのキーがあったらからだ。
あ?どういうことだ?

再会

冷や汗というものをかきながら、恐るおそる外に出てみると、バイクに見知らぬ誰かが乗っている。
通常の俺であれば、すぐに警察に通報しただろう。
しかし、その時はなかなか就職が決まらないイライラもあって、直接そいつに声をかけてしまったのだ。

誰だ!?
そいつは振り向いた。
俺は、その顔を見てぶっ飛んだ。
「いいバイクだな」
バイクに乗っていたのは、まぎれもない俺のじいちゃんだった。

「うそだろう!」言い忘れたが、じいちゃんは10年前に死んでいる。
それなのに、じいちゃんはまったくそれに気づいていないかのように、俺に言うのだ。
「鈴木商店まで行こう」

じいちゃんには、ちゃんと足があって、何ならかっこいい靴まで履いていた。

二人乗り

「大丈夫だ」
じいちゃんが言う。
「いやいや、全然大丈夫じゃないんだけど」
俺が言う。

「分かっているよ、おまえが言いたいことは。でもいいじゃないか。」
じいちゃんは、そういうと、バイクから降りて俺をせかした。
「ほれ、おまえが乗れ。俺はお前の後ろに乗る。ああ、おまえが言いたいことは分かる。これ一人乗り用だもんな。」
「そういうことじゃなくてさ、じいちゃん、あのさ……」

俺の言葉を遮るように、じいちゃは続けた。
「俺の姿が見えるのはお前だけだ。心配ない、出発しようぜ」
よく分からないまま、聞きたいこともたくさんなったけど、俺はじいちゃんに促されてバイクにまたがった。
「レッツゴー!!」

未来へ

やはり幽霊だけのことはある。
じいちゃんを乗せた俺だったが、全く重さを感じないのだ。
俺の背中にしっかりしがみつく手の感触だけはあったが、バイクは軽々走って行った。

「ほー!やっぱりバイクはいいなあ!」
やたらめったらはしゃぐじいちゃん。
いつしか、俺も自分が置かれている状況を忘れ、バイクを楽しんでいた。

「自分の人生は、自分で運転するんだ。絶対にハンドルから手を放すな、愛しい孫よ」
背中の方でそう聞こえた。
すると、しがみつく手の感触は消えた。

足がある幽霊のじいちゃんは、きっと今も俺のことを見守っていると思う。
俺は、花を買い、墓までバイクで走って行った。

*大好きだった祖父の人柄を思い出して、書いてみました。