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バイクで月を走る

ついに月面をバイクで走る時代が来た!

月面を走るためのバイクの開発が本格的に進んでいることは以前から聞いていました。
しかしわたしはなかなかそれを本気にできませんでした。
なぜなら月面を走る車両と言えば、のんびりと走る作業車ばかり。
地球よりもはるかに軽い重力の影響でスピードを出すのが難しいのです。

もちろん、月面を移動するためのバイクもありますが、それもみんなのんびりと走るものばかり。
地球で300km/hを超える速度でバイクを走らせていたわたしからすれば、どれもこれもバイクとは言えないものだったのです。
月面で走行するためのバイクがはじめて開発されたのはもう100年以上前の話、当時の時速は15km/h程度だったとか。
それに比べれば現在はだいぶマシになっているとはいえ、あくまで「月面での移動に便利な乗り物」の域を出ていない状況です。

しかし、そんなわたしの月面用バイクのイメージを覆すようなバイクがついに登場したのです。
最高速度は時速200km/hを超える性能を誇るバイクです。
何でも宇宙船の技術を採用して大きな出力を実現することができたのだとか。

それは宇宙への旅にもに似た経験だった

その新型バイクに乗ってみたいという人が殺到していたため、順番待ちで長いこと待たされたのですが、ようやく順番がまわってきたのです。
この日が来るまでどれだけ待ち遠しい思いをさせられたことでしょう!
そして今、わたしはその新型月面バイクにまたがって走り出すところにいます。
GOサインを出せば、すぐにでも走り出せる状況。

宇宙服を身にまとい、バイクにまたがりつつつ月面の光景を眺める。
月の世界での生活にも慣れ、この光景もすっかり見慣れたものですが、それでもバイクにまたがってみる景色は普段とは違って見えます。

そう、これは地球でのツーリングと同じだ。
見慣れた景色もバイクに乗ると違って見える。
通ったことがある道もバイクで走るとまた違った経験になる。
こんなバイク乗りの喜びは月月世界でも同じようです。

そしてついにGOサインを出す。
強力なエンジンが一気に爆発し、わたしは「飛んだ」。
そう、重力が少ない月世界での高速でのバイクの走行は「走る」というよりも「飛ぶ」感覚に近い。
それはバイクと宇宙船の中間くらいの感触だろうか、なんとも言えない爽快感が全身を走ります。

地球に比べて荒涼としている月の光景もスピード感たっぷりに走行するとなんともエキサイティングなものに見えてきます。
他にライダーがいないこともあって崩壊した世界を一人で旅しているような気分です。
これで直接外気を感じることができたらいいのに!
宇宙服を脱ぎ捨てたくなる衝動に駆られるのを必死に我慢します。

これまで月世界用のバイクを開発してきた人たちはこんな感覚を求めて何度も試行錯誤を繰り返してきたのでしょう。
わたしは今その目的にようやくたどり着いた感覚を味わっているのだ…そんな感動も味わいつつ、ひたすらバイクを走らせ続けるのでした…